長崎新聞 雲仙普賢岳大火砕流から10年
【提言】災害に学ぶ


43人の死者、行方不明者を出した雲仙・普賢岳の大火砕流惨事から来月3日で丸10年を迎える。
犠牲者の遺族、住民が味わった苦汁の日々は、
阪神大震災や北海道・有珠山、伊豆諸島・三宅島の噴火災害への教訓として生かされたのだろうか。

普賢岳の噴火当時から被災者救済や被災地の復旧、復興に携わった各界の6人に、
全国に伝えるべき教訓と課題を聞く。


【第二回】2001.5.29.記事


太田一也さん(元九州大学島原地震火山観測所長)


防災意識の改革必要

研究者と行政 意思疎通を


Q:6月3日の大火砕流で、報道陣も含め43人が犠牲になった。

当初、これほど危険な状態になるとは予想していなかったが、
日を追って危険性が高まり、5月26日には火砕流でけが人が一人出た。
そこで避難勧告が実行され、
その後は「上木場は極めて危ないから入るな」と連日訴え続けた。

新聞やテレビも報道したが、惨事は起きてしまった。

住民は火砕流の恐ろしさを知らなかったと言い、
危険性を報道していたマスコミ自身も危険な区域に入っていた。


Q:危険性を伝えたはずなのに十分認識されていなかった。

人間は起きてほしくないことから目を背け、自分にいいように受け止めたがる。
人の警告を「まさか」と逃避する心理は、誰にでもある。

マスコミも、火砕流の危険性を記事には書きながら、
自らは真剣に受け止めず危険な場所に入った。

加熱取材と特権意識が背景にあった。


Q:危機管理に当たって、まず取り組むべきことは。

行政や住民の防災意識の改革が必要だ。

幼少時からの防災教育を徹底するしかないし、
もう少し楽しいものにしなければならない。
小学校などでも日常的に取り組んで欲しい。

有珠山の噴火に対応した北海道大学の岡田弘教授の場合、
以前から小学校や老人会で講演を重ね、噴火災害への住民の意識を高めてきた。
そのことが、今回の有珠山噴火時の的確な対応につながった。


Q:有珠山噴火災害の現地対応、体制は万全だったのか?

地元研究者らがキチンと対応しているのに、
国と火山噴火予知連絡会が途中から主導権を握り、混乱した。

都道府県の主導で、地元大学の研究者らと協力し、
国はそれをサポートするという体制がよい。

普賢岳噴火災害の場合、6月3日以降は、
知事主導で自衛隊も含めて関係機関が一致協力し、うまくいった。


Q:研究者の役割は?

いざというときは全面的に地元に協力しなければならない。

私たちの使命は、災害を少しでも減らす「減災」。

観測結果や研究成果を地域社会に生かすためには、
日ごろから行政との意思疎通や信頼関係の構築を
進めておくことが不可欠だ。

(聞き手:島原支局山田貴巳)