「有珠山だより」その5


島原ボランティア協議会 高木浩徳 氏    島原新聞 平成12年5月19日


一ヶ月半ぶり一時帰宅

5月16日(火曜日)
有珠山の噴火で非難して以来、これまで一度も認められていなかった
虻田町の洞爺湖温泉街などへの一時帰宅がついに実現することになりました。

虻田町の洞爺湖温泉地区や泉地区は、
最も危険な「危険度1」の立ち入り禁止区域に指定されていますが、
有珠山の活動がこのところほぼ停止状態にあることから、
避難住民の気持ちをくんで規制を緩和したもののようです。

本日、虻田町の長崎良夫町長が発表したもので、17日から実施されます。
一世帯一人だけ、しかもたった30分間だけという短時間の帰宅ですが、
避難してから一ヶ月半ぶりにわが家に帰れるとあって、
住民のみなさんからは喜びの声が上がっています。

「一日でもいいので、家を見たい」
という住民のみなさんの声は切実で、行政や現地対策本部への熱心な訴えかけが
ここにきてようやく現実のものとなった格好です。

初日の17日には、12人ずつの3グループに分かれ、
消防車両でそれぞれの自宅にピストン輸送する予定で、
万一の緊急時には消防のサイレンや帰宅世帯に配布する防災無線で
危険を知らせることになってます。

また同時に、比較的危険度が低い地区では、
これまで一時間半から二時間が限度だった日中の帰宅時間が、
それぞれ二時間半から五時間に延長されることも決まり、
「危険度3」の地区では、
一世帯四人まで帰宅できるようになった上、マイカー使用も許可されました。

有珠山の噴火以来ずっと避難を続けていた人たちは、
「年金証書などの大切なものを置いてきてしまったので、
一度でもいいから家に帰りたかった」と
待望の一時帰宅を喜んでいますが、危険区域の一部については、
まだ立ち入りが禁止されたままの状態です。

火山噴火予知連有珠山部会長の岡田弘北海道大学教授は、
「泥流や噴石などですでに住めなくなっている所もあり、
行政側は危険で絶対入れない地域と、
万全の安全策を講じて一時帰宅が実施できる地域に明確に分けて、
住民の要望に対応していくことが望ましい」とコメントしています。

一方、14日には、
近くの長万部町の避難所で暮らしていた虻田町民(45世帯85人)が
ふるさとの虻田町に帰ってきました。

長万部町にある7ヶ所の避難所のうち4ヶ所が廃止され、
新しく避難所に指定された虻田町のあぶたふれあいセンターに引っ越したわけです。

引越し作業を終えた人たちは
「同じ町内にもどれてホッとした」
「知っている商店街がすぐそばにあり勝手が分かるので、気分的に違う」と
住み慣れたマチにもどってきた感想を語っておられました。

私たちボランティアの活動について一言つけ加えると、
今回の有珠山噴火では、これまでに約1900人のボランティアが登録され、
避難住民のみなさんの負担を少しでもなくそうと活動を続けてきましたが、
避難所のみなさんとの連携もうまくいき、住民のみなさんからも評価されているようです。

これまでの普賢岳災害や阪神大震災でのボランティア活動の教訓が
生かされているといえるのではないでしょうか。

ただ、当地のローカル紙「室蘭民報」の記事は、
行政側に受け入れ態勢に対するボランティア側の不満も紹介し、
「対等のパートナーなのに行政は都合のいいときだけボランティアを利用し、
あとは知らんぷりをする」という
一人のボランティアの声を取り上げていました。