「有珠山だより」その6


島原ボランティア協議会 高木浩徳 氏    島原新聞 平成12年5月20日


少しだけ春がきた

5月17日(水曜日)
前回のレポートで触れていた通り、本日これまで一時帰宅さえ認められていなかった
虻田町の洞爺湖温泉地区の人たちが、噴火以来初めて同温泉地区に足を踏み入れました。
実に48日ぶりの一時帰宅でした。

消防車に分乗しながらのわずか30分という短い時間での帰宅でしたが、
長期間にわたりいつもわが家の様子を心配し気をもんでいたみなさんの気持ちは、
普賢岳災害を体験した私たち島原地区の住民にとっても他人事とは思えません。

洞爺湖温泉地区の人たちにも少しだけ春がきたという感じです。

自宅にもどって来た人たちは、途中の道路が30センチも盛り上がっているのに驚いたり、
自宅のドアが開かなかったりで動揺されたそうですが、
家の無事を確認できたことや、家族の着替えなども持ち出すことができたことなどで
みなさん満足そうな様子でした。

ある奥さん、
「家の中では花も無事で大丈夫でしたが、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
希望だった子どもの制服も持ってきました」と笑顔を見せておられました。

地区の人たちと一緒に洞爺湖温泉地区に足を踏み入れた虻田町の長崎良夫町長も、
「建物の破損もなく安心しました。私も含めてみなさん、胸につかえていたものが
取れたと思います」と話していました。

中には、「前回の噴火のときは一年後になって泥流が発生したので、
今回は危険度が低いうちに他の地区も一時帰宅を認めてほしい」と、
さらに立ち入り規制を緩和するよう要望する人もいます。

有珠山の周りでは、この一週間ほど天候がすぐれず、山の見えない日々が続いていましたが、
昨日、今日と晴天になり、満開の桜の下、絶好の花見日和です。

牧場には春の草花が咲き、
「空ら沢」(雪どけの頃は水が流れるものの、夏になると水がかれてしまう川)のせせらぎで
子どもたちが水遊びをしています。

5月18日(木曜日)
小康状態を保っている有珠山は、昨日ぐらいからさらに噴煙の量が少なくなり、
火山活動はほとんど停止状態といったところです。

明後日の20日(土曜日)には、
火山噴火予知連の会議が開かれることになっています。
このところ予知連の会議が開かれるたびに被災地への立ち入り規制が少しずつ緩和されてきた
経緯があるだけに、避難している住民のみなさんの間には、
一時帰宅できる区域の範囲がさらに拡大されたり、
帰宅時間が今まで以上に延長されるのではとの期待感が広がっています。

とくに、23年前の噴火のときには、
噴火が始まってから半年後に火山の活動が再開し、さらに大規模な噴火につながっていったので、
また活動が活発になってからでは遅すぎるという危機感が
住民のみなさんの中に強くあるように感じられます。

昭和新山ができた57年前にも、第二の活動が見られたということで、
山が落ち着いた状態にある今の時期を絶好のタイミングと考え一時帰宅を認めてもらわないと、
もう二度と家にはもどれないかもしれないという不安が根強いようです。