長崎新聞

平成13年3月5日(月)「後退する被災者支援策」
           「普賢岳」「有珠山」に及ばぬ対応
             主人公の住民置き去り


伊豆諸島・三宅島の噴火災害で、住民の全島避難から半年が過ぎた。
大量の火山ガス放出で帰島のめどが立たない住民に不安が広がる。
島の情報が入らず、分散避難で地域のコミュニティは崩壊寸前に。
雲仙・普賢岳噴火などで取られた支援策も実施されず、
被災者支援に携わる関係者は
「ここ十年の災害対策から後退している」と危機感を募らせている。


〜悲痛な声〜
「三宅では、やってないの?」。
昨年噴火した北海道・有珠山の観測に当たる北海道大の岡田弘教授は、
三宅島の映像や写真が島民にわずかしか提供されていないと知り絶句した。

有珠山では自衛隊が空から撮った映像をその日のうちに避難所で連日上映。
留守宅に気を遣う住民の不安軽減に貢献した。

「東京なら有珠以上のことをやっていると思っていた。」

2月24日、三宅村の商工業者が集まったシンポジウムで
「建物や設備がどうなっているのか不安。一時帰島させて欲しい。」
よ悲痛な声が上がった。

だが、都は「まだ危険。作業のためまだ船の取り合いだから」(青山副知事)と
否定的な姿勢を崩さない。

有珠山で一時帰島を支えた岡田教授は
「防災関係者の数を絞れば住民の短時間上陸は可能。ヘリからの視察でもいい。
 住民が現状を知ることが大事。」と首をかしげる。

「災害対策は住民のためにするんですよ。主人公は住民なんだから。」


〜自助努力〜
「三宅島の対応は明らかに後退」。
普賢岳の噴火以来、被災者支援策に詳しい福崎博孝弁護士(長崎弁護士会)は言い切る。
「今すぐやるべきだ」と強調するのが、普賢岳で導入された「食事供与事業」。

二ヶ月以上の避難生活者に国が一人一日千円の「弁当代」を支給、
4人家族で月12万円になり収入がない世帯を支えた。

有珠山でも、北海道の全額補助で同様の事業が実施された。

しかし
「雲仙とは状況が違うし考えていない。
 被災者生活再建支援法の支給や義援金もある。」(青山副知事)と突き放す都に、

「三宅村も都も
 面倒なことをしない点で恐ろしいぐらい一致している。」(坪田地区の女性)
と不満の声が上がる。

民宿経営の男性は2月のシンポで、
長崎県が「雲仙岳災害対策基金」を設けてきめ細かい支援をしたことを挙げ
「基金は考えていないのか?」と長谷川村長にすがる思いで尋ねた。

「考えていない。自助努力でやってください。」と村長。

男性は「あきれて何も言えなかった。住民への思いを聞きたいのに、、、」と
リーダーシップに失望した。


〜法整備を〜
自営業者の有志は「このままではつぶれる。」と行政への要望を考え始めた。

普賢岳では連日のように住民が島原市長に面会を求めた。

自宅を失った住民団体の会長だった堀一也さん(55)は
「住民が声を上げないと行政は何もしてくれない。
 終息を待つのではなく、早く動かないと。」。

住民の声がまとまりにくいのは、都内の公営住宅などへのへの分散避難が要因だ。

岡田教授や福崎弁護士は
「大都会に埋没させてしまった。」と批判する。

各地で支援や復興計画の策定に携わる社会安全研究所(東京)の木村拓郎所長は
「雲仙では避難前の地域性が保てたが、三宅は大崩壊。
 民間住宅への家賃補助などで避難場所を集約し、コミュニティを再構築するべきだ。」
と指摘した。

3日現地視察した森善朗首相は
復興の特別立法検討を表明したが、政権とともにその先行きは不透明だ。

「火山災害は長期化する点で地震や風水害とは違う。現行法では対応できない。」
と言う木村所長は、
被災地によって救済策をばらつかせないため、
生活支援も含む「火山防災対策基金法」創設を提言している。


(写真)全島避難から半年、三宅島の雄山からは火山ガスの放出が続く。
    手前は三池港の駐車場に放置された車
    =2月27日、共同通信社ヘリから