長崎新聞

平成13年3月19日(月)「終息いつ?学者ら苦戦」帰島のめどつかぬ三宅島


終息いつ?学者ら苦戦

過去に例なし 予測阻む火山学の限界

帰島のめどつかぬ三宅島

けた違いに大量の火山ガス、2500年ぶりの山頂陥没。
三宅島の噴火が終息する時期をめぐり火山学者が苦戦している。

「予測の科学的根拠がない」「ガス放出が終わっても活動終息とは言い切れない」。

背景には、経験則に頼るところが多い学問の限界があるようだ。
一人一人の学者に、今後どういう道筋が考えられるかを聞いた。


経験則通じず

火山は一般的に、噴火が始まる危険があればある程度キャッチできるが、
終息は過去のパターンに照らして予測するしかない。

地質調査所の風早康平主任研究員によると、
三宅島の二酸化硫黄(SO2)放出量は一日平均約4万8千トン。
最も大量にSO2を放出するとされてきたメキシコのポポカテペトル火山の約6倍。
三宅島では過去例がなく「経験則による今後の予想は不可能」と言う。

地下のマグマはSO2や二酸化炭素(CO2)などガス成分を大量に含み、
これが噴火の原動力になる。

火山噴火予知連絡会の井田善明会長らは、
ガスを含む比重の軽いマグマが、マグマだまりから火口近くに上昇、
ガスを放出しては沈下する「火道内対流」が起きているとみている。

SO2の観測により、この半年で約1立方キロ余りのマグマからガスが抜けたことは分かるが、
肝心なマグマだまり全体の体積は的確な推計ができず、数立方キロ〜数十立方キロの幅が出る。

単純計算だと最大20年以上続くことになるが
「最近は火山性微動が活発化。
 火道が目詰まりしてガスが出にくくなっている可能性がある」(井田会長)


CO2量に注目

平林順一東京工業大教授は
「SO2が一日5千トンを切らなければ、安全に生活できる状態にならない」と
一つの目安を示した。

最近CO2観測が注目され始めた。
SO2よりマグマから放出されやすく、減少し始めた時、いち早く変化が分かる可能性がある。
減少傾向はまだ見られないが、気象庁は観測を強化する方針だ。

火山ガスが止まれば、島へ帰れるのか。

三宅島は今回、山頂が直径約1.6キロ、深さ約5百メートルの大陥没を起こした。
約2千5百年前にこの形の噴火があり、
この時は約7億5千万立方メートルの火山灰や噴石を伴う大噴火だった。

今回は火山灰も推定1千万立方メートル台と少なく、
津久井雅志千葉大助教授は
「活動は全体として終息に向かっている」。
井田会長も
「山頂噴火の恐れも続くが、防災上問題となる規模ではないだろう」と話す。


激しい噴火も

だが地質調査所の須藤茂火山地質研究所長は
「新たなマグマが上昇して、陥没を埋める活動に移るだろう。
 同様に山頂が陥没したハワイのキラウエア火山は静かな活動で終わったが、
 三宅島では激しい噴火となる恐れもある」と言う。

三宅島は約20年ごとに山腹噴火をしてきたが、
多くの研究者が
「今回でパターンが変わってしまうのでは」と懸念する。

噴火予知の難しい住みにくい島になってしまうからだ。



火山学者らの見方

井田善明 火山噴火予知連会長
 ガス放出は最悪の場合、数年続く恐れがある。
 山頂噴火の可能性もあるが、防災上問題がある規模にはならないと思う。

須藤茂 地質調査所研究室長
 今後を予測できる科学的根拠はない。
 山頂陥没をマグマが埋める際、静かな活動で済む可能性もあるが、激しい噴火もありえる。

津久井雅志 千葉大助教授
 活動は終息に向かい、山腹噴火の危険性は低いのではないか。
 ガスの放出が5〜10年続くというのはどうかと思う。

村上亮 国土地理院研究室長
 島の収縮を示す地殻変動が続いており、マグマは下がっていると思う。
 収縮がガス放出と連動している可能性があり究明したい。

風早康平 地質調査所主任研究員
 三宅島は世界の火山の中でも最も大量のガスを放出しており、
 過去の経験則による予測は不可能。年単位の警戒が必要。

宮崎務 東京都防災専門員
 今後の推移は見当もつかないが、山腹噴火などに移行しても前兆はとらえられると思う。
 ガスが止まれば帰島できるだろう。

平林順一 東京工業大教授
 爆発や火砕流の危険性は低いと思うが、
 一日の二酸化硫黄(SO2)放出量が少なくとも5千トンを切らないと
 安心して生活できない。

大島治 東大大学院助手
 今後は山頂噴火主体で、山腹噴火は数百年起きないのでは。
 ガスは半年や1年では終わらないが、そう長期化もしないと思う。


(写真)大量の火山ガス噴出が続く伊豆諸島・三宅島の雄山=2月27日