島原新聞

平成14年5月9日(木) 「深刻化する避難生活」


コミュニティ崩壊の危機
 公営住宅がかえってアダ

火山ガスの放出により全島避難が一年以上続いている伊豆諸島・三宅島。
長期に及ぶ不自由な避難生活を強いられた普賢岳噴火災害でも
経験したことのない「苦況」に立たされている同島の避難住民が
このほど「三宅島島民連絡会」を発足し、結束を図った。

東京都内の公営住宅などでの「分散生活」により
住民の声がまとめられなかったことから
避難先ごとに運営委員を選出して新たな組織を結成したもので
様々な意見を集約し、島民の総意として行政への要望にあたるのが目的だ。

ところで、三宅島に関する報道は最近あまり目にしなくなってきたが、
避難の長期化に伴い、その実情は悪化しており
「近年になかった課題が徐々に顕在化している」と指摘するのが
(株)社会安全研究所の木村拓郎所長。

三宅島の全島避難から一年以上を経過した時点で
同氏が被災者アンケートをもとにまとめた
「噴火災害における被災者支援のあり方に関する一考察」では、
長期化する火山災害がもたらす問題、
特に普賢岳噴火災害等で講じられた支援策との相違点
大きな課題として取り上げている。



平成12年9月1日に全島避難が決定し、
1年以上経過した翌年の12月1日現在の避難者数は3642人
うち65歳以上が約32%で、3人に1人が高齢者だ。

当初は全国21都道府県に分かれて避難しており、
1年を経過した時点でも18都県と国外にまたがり、
全国各地に分散して避難を続けている。

避難先で最も多いのが、都内の3291人で、全体の約9割。
その避難先も23区全域と多摩地区27市町などに分散避難している状況。
また、避難者の7割が公営住宅に入居している。

避難所や仮設住宅という一般的なパターンを踏まずに
公営住宅の空き部屋を活用して直接、公営住宅に入居させた点は
画期的な方法として評価され、入居者の8割が「満足」と答えているが、
それが結果的に避難者を都内や全国各地に分散させることになり、
ひいてはコミュニティの崩壊など新たな問題を生み出したとされる。


別のアンケート調査(平成13年3月)によると
「島民同士の付き合い」については、
76%が「付き合いが減った」と回答。

「苦悩」に関する質問では
「島や自宅に関する情報不足」
「村や島の将来についての不安」がそれぞれ70%

次いで「生活の見通し」「知人に会えない」などが40〜50%を占め、
二人に一人が居住環境の変化や
コミュニティがなくなったことによる「ストレス」を訴え、
住居の集約化を希望する回答が52%だった。

普賢岳噴火災害では、仮設住宅が建設されたが、
避難前の集落状況に配慮した入居により、
ほとんど問題にならなかったのがコミュニティ

しかし避難が長期化し、
加えて帰島の見通しがたたない三宅島の場合では
「住宅の集約化によるコミュニティの再構築が必要」とする
島民の認識が高まっていると推測される。


少ない義援金支給
 もはや生活維持の限界

三宅島の避難形態の特徴の一つが、子どもたちだけの集団避難生活
閉校予定の都立秋川高校の空き教室と寮を活用し、
共同生活をしながら通学する方式を採ったが、
長引く避難生活で徐々に親元に引き取られるケースが増え、
避難当初に比べて半数以下に減少。

「長期化する避難に対応するためには、子どもと親が一緒に生活すべき」
考えていることも明らかになった。



また、生計の状況をみると、
避難から半年後の調査では、5割以上の世帯で収入が減少し、
一年後の調査でも避難前に自営業だった世帯の4人に1人が収入がなく、
また、不足する収入を、
主に預貯金の取り崩しや義援金などで補充しているという。

収入は特に60〜70歳代の世帯で半減。
自営の農・漁業、民宿、小売などが休業に追い込まれ、
結果的に年金だけの収入になっている。

避難から一年間は雇用保険や義援金、
被災者生活再建支援法に基づく支援金、預貯金などを
活用して生計を立ててきたが、もはやそれらも限界。

避難の長期化は
多くの村民の生活に経済的な打撃を与えているとされる。

さらに様々な課題を克服する為の市民運動が表面化していない
最大の理由は、避難者が離散して生活しているため、
島民同士が互いに連絡が取りにくく、相談できないこと

影響しているという。



一方、避難者への支援の実態をみると
住宅支援では空家となっていた公営住宅が提供されており、
今のところ家賃は無料だが、部屋の使用期限は
3ヶ月ごとに更新する方式のため、避難者は
「家賃の徴収が始まるのではないか」と不安を抱えているのが実情。

さらに部屋が広い住宅では
複数の世帯が同室を余儀なくされているケース、
足の不自由な高齢者が高層階に入居したため
外出もままならないケース、
知人が遠くに住んでいるためになかなか会えないなどの課題は
解決されずに残っている。

普賢岳災害では
民間賃貸住宅に入居した人にも月額2万円の家賃補助が実施されたが、
同様の支援策が三宅島でも講じられれば、
避難住民もストレスは大幅に解消することから
「避難者のニーズに即したメニューを整えることが必要だ」と指摘する。


また、生活費の支援では
阪神・淡路大震災を機に創設された被災者生活再建支援法に基づき
最高100万円の給付金が支給され、
平成13年9月末までに避難世帯の73%が受給した。

しかし普賢岳災害でできた
「食事供与事業」(1人1日1000円を支給)や「生活雑費支給事業」、
さらに踏み込んだ支援として
有珠山噴火災害で実施された「生活支援事業」は、なく
同じ噴火災害ながら
三宅島の避難住民の生計は極めて深刻な状態に陥っている、という。

このほか
普賢岳噴火災害の義援金は総額233億円にのぼり
激甚な被害を被った世帯には500万円以上が配分され、
さらに義援金の一部が雲仙岳災害対策基金に活用されたことにより
現行法ではできない各種支援が講じられたが、

三宅島の場合は
避難者1人当たりの義援金の配分はわずかに約50万円。
これまでの支給された現金は
被災者生活再建支援法と義援金の二種類だけで
4人世帯でも合計280万円しかないのが実態だ。


再生に向け島民連絡会
 総合的な支援制度の確立を

このため木村氏は
応急対策と復興の2ステージに分けた従来の災害対策から
今後の噴火災害では
「長期化する避難生活が最大の課題だ」として
その段階における支援策の強化を指摘するとともに
「緊急避難期」「避難生活期」「復興期」の3ステージに分けた
火山災害に特化した総合的な
「被災者支援制度」の確立の必要性を訴えている。


このように三宅島の被災住民が抱える課題は
食事供与事業に代表される生活支援をはじめ
公的年金に頼るしかない高齢者の長期にわたる避難生活、
分散した避難住民のコミュニティの問題など多岐にわたる。

これらの解決に向け、
離散しながら避難生活を続けている住民の意見をまとめて
行政に要望する三宅島島民連絡会の発足式は
避難後、半年おきに行われている
「三宅島島民ふれあい集会〜三宅島の再生にむけて〜」の中で
開催された。

会場となった東京都港区芝浦小体育館には
避難住民ら約1500人が参加し、
全国からの心温まる支援で普賢岳噴火災害からの復興を成し遂げた
普賢岳被災地からもNPO法人島原普賢会の大町辰朗理事長らが出席。

発足式に先立って「三宅島の復興計画」について講演した
林春男・三宅島復興計画策定委員長は
「復興というのは島に帰ってからでは遅すぎる。
 今からしっかりと考え、どうすれば良いか、計画を作り上げておく必要がある。
 避難住民の皆さんの意見をどしどし出してほしい」
と呼びかけた。


島原普賢会の大町理事長が激励

昨年9月の第3回集会に続いて参加した
島原普賢会の大町辰朗理事長は
「私たちはふるさとに帰りたい一心で三角地帯の復興に取り組み
 (三宅島の)みなさんの気持ちが良くわかる。
 皆さんがふるさとへ帰れる日を願っている。」
と激励。
持参したカンパを連絡会の佐藤就之会長に手渡した。